政府は、8月28日、中央省庁が雇用する障がい者数を水増ししていた実態を公表した。新聞報道によると中央省庁など国の行政機関の8割で雇用の水増しがあったとされた。8割までもが不正算入を行っていた事実は、制度を知ったうえでの故意の改ざんであることは明らかであろう。障がい者雇用を推進し、民間企業の手本とならなければならない国の現場から、奇しくも、制度的強制と雇用環境の現実におけるギャップの大きいことが明らかとなった。
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(平成28年4月1日施行)により、雇用の分野で障がい者に対する差別が禁止された。募集、採用、賃金、配置、昇進など雇用に関するあらゆる局面で、障がい者であることを理由とする差別が禁止されている。この中に、法定雇用率(2.0%)という指標が示されている。障がい者には、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の3障がいがあり、これが並列に扱われている。
障がい者支援を長年続けてきた者としての立場から見ると、法定雇用率を定め、一律に雇用を強制することには初めから無理があった。障がい者とは、社会生活において何らかのハンディを持つ者をいうが、身体障がいは、補装具の進歩などからかなりのケースで雇用が可能となっている。しかし、知的障がいでは、多くの場合がコミュニケーション障害を伴うため職場での理解を得ることが難しい。精神障がいでは、さらに職場での理解が難しい。
障がい者雇用では、障がいの特性を理解し、個々人のために、職場で障がい者を受け入れる環境を作れているかどうかが課題となる。雇用環境の差別を法的に禁止し、雇用を強制するだけでは、この法律の実行性は上がらない。この雇用率を実現するためには、雇用の現場以前に、地域環境が優しく障がい者を受け入れる社会となっていることが前提となる。実態を踏まえ、具体化するプロセスをイメージできない数値目標は意味をなさない。数字によるマジックにだまされないようにしたいものである。