節水型乾田直播を考える
現在、農林水産省では米価格高騰や生産者減少の解決策として「節水型乾田直播」を推進しています。この方法で本当に問題なくお米を作り続けることができるのでしょうか。いろいろな観点から考えていきたいと思います。

短期的な問題
- 発芽問題
- 雑草コントロール問題
- グリホサートを主成分とする除草剤の使用増大
- 収量・収穫の確実性、食味などの問題
発芽問題
温室で苗を作ることと条件が大きく異なり、乾田直播は種まき後の低温で発芽せずまき直しするケースがあります。また、乾燥しすぎで発芽不良を起こしたり、水を多く与えすぎると腐敗する可能性があります。条件の悪い田んぼで節水型乾田直播を実施すると、失敗しやすいようです。
雑草コントロール問題
水田の水は、ある程度雑草を抑える効果があります。苗であれば雑草よりも先に生長しているため負けにくいですが、直接土に種をまく場合は多くの雑草とのアドバンテージがないため、競争に負けやすくなり、除草に大きな労力が必要になります。
また、有機栽培をするには水田に比べて、あまりに手間が増えてしまうことになってしまいます。
グリホサートを主成分とする除草剤の使用増大
まず田んぼにまかれるのは除草剤です。そしてその中にはEUでは禁止された農薬が使われます。
乾田直播が広がれば、そのぶんグリホサートの使用量は増えるでしょう。
グリホサートにはその安全性を根拠付けていたと思われていた論文に大きな不正があることが発覚しており、最近論文が撤回されました。その使用が増えることは大きな懸念材料です。
収量・収穫の確実性、食味などの問題
移植栽培に比べて乾田直播による収量はやはり下がる傾向にあります。
雑草の発生で水田以上に労力がかかり、さらに収量が下がれば、それは失敗ということになってしまうと思います。また食味にこれらの問題が現れるケースもあります。
長期的な問題
- 連作障害の問題
- 種子コーティングやバイオスティミュラントの問題
- 雑草イネの増加
- 農薬耐性品種の導入の問題
連作障害の問題
節水型乾田直播は連作障害が起きやすく、さらに化学肥料の使用に頼ることになりがちであることが懸念されます。土壌流失、将来的な生産力の低下、さらには農耕不適地に変わってしまう懸念も存在します。
種子コーティングやバイオスティミュラントの問題
直播の際には発芽を促したり、鳥や虫による食害を避けるために種子コーティングを行うことがあります。まいた時に土の中に潜るように鉄コーティングをしたり、忌避するような味がするもの、ネオニコチノイド系農薬でコーティングするケースがあります。
また、発芽後、根の生育を促すマイコス菌などのバイオスティミュラント(微生物資材)が使われるケースが多いといわれます。外から持ち込んだ微生物が大量に導入されるとその影響は懸念されます。
雑草イネの増加
日本では節水型乾田直播はまだ広がっていませんが、米国や南米では乾田直播が主流になっています。そこでの大きな問題が雑草イネの出現の問題です。
収穫からこぼれたタネが自生して、野生化したり、交雑によって発生します。水田の場合は代かきや水を張ることで雑草イネが繁殖することは難しい状態が作られます。しかし乾田の場合にはそれがないため、イネは雑草イネの競合にさらされます。
ひとたび、雑草イネが出現すれば田植えで省略した以上の労力をかけて排除しなければならず、大きな問題になります。
農薬耐性品種の導入の問題
雑草イネだけを排除する有効な方法がないため、それを解決するために作られたのが農薬耐性品種のクリアフィールド系品種です。ドイツの遺伝子組み換え企業「BASF」では“クリアフィールドシステム”として同社のイミダゾリノン系除草剤と組み合わせたものを提供しています。
すでに米国・ルイジアナ州では過半数のイネがこの遺伝子操作品種になってしまっています。ブラジルなどでもかなりのシェアになっていると考えられます。
問題なのはイミダゾリノン系除草剤が土壌に18ヶ月の長い期間残留してしまうことで、連作するとすぐに雑草イネやイネ科雑草に耐性がついてしまいます。ですので、連作はできず、BASF社は別の農薬除草剤ACCアーゼ阻害剤に耐性のある品種を開発して、“プロビジアシステム”として売り出し、プロビジアシステム→クリアフィールドシステム→遺伝子組み換え大豆など・・・というきわめて複雑な輪作を奨励することで、農薬耐性雑草の出現を防ぐことを呼びかけています。
農薬耐性イネの花粉が雑草イネにつき、雑草イネが除草剤耐性になってしまい、解決からは遠くなっているというのが実際でしょう。そしてさらに遺伝子操作品種に依存することになっていく可能性があります。
この短期的な問題、長期的な問題を合わせて考えると、節水型乾田直播には様々なリスクがあるといえます。
水田こそが高い持続性と生産性をもたらす優れた栽培方法であることを再認識する必要があります。



