4月末から夏日が続き、春から一挙に夏になってしまった感がある。若葉も日に日に緑を強めていく。果樹の桃、ナシ、りんごと次々に花が咲き誇る。しかし、この季節の風景に変化が多く見られるようになってきた。果樹の畑に切り株だけが並ぶ光景である。それは老木ではない、成長し成木になるまで手塩に掛けてきた木々たち、それが一瞬にして消えていく。果樹栽培を断念していく農家の苦悩が伝わってくる。
そこには、原発事故後の影響が大きく働いている。避難区域ではないが被災地となった福島では、農産物の生産が行政指導や東電の賠償とも絡み二転三転しながら、風評被害であると言われながら社会の流れの中で翻弄されている。若い農業後継者がいた専業農家もその多くは福島を離れ、老人世帯となった農業者は、将来への展望を見え出せず農業を捨ていく現実が垣間見える。
現在では、福島県内の主要農産物である米や果物については全品検査体制が整い、放射能汚染された農産物が市場に出回ることはない。しかし、市場での動きはまったく別である。風評被害とは、市場における消費者心理をそのまま反映している。食べ物は人間の命の根源に係ることから、安心して食べられるものを選ぶのは当然であり、選択肢が複数あれば不安を感じるものを選択することはない。売れない状況を知りながら、東電は価格差や損失を営業補償として賠償金を支払い続けている。現状では、それが打ち切りになったとき価格が以前の状態に戻っているとは到底考えられない。
不安が解消され、品質の良さと割安感が市場感覚として回復することで、需要は回復し価格は安定する。福島の農産物は、原則全品検査により出荷されている。日本一厳しい検査体制を通ったものだけが市場に出回っている。これこそが、日本中に原発が林立する現在の日本で、農産物の安全判断のための基準になっていかなければならない。原発事故を体験した福島からの安心基準である。放射能汚染は、風に乗り、水とともに流され、行政区域で線引きできる相手ではない。福島で確立されてきている全品検査体制を全国に展開していくことが、消費者と生産者の信頼関係を取り戻し食の安全を確保していく道となる。
豊かな日本の田園風景を守ることこそ自然を守り、人間の生きる環境を守っていくことにほかならない。今年もまた豊かな秋の実りを安心して迎えられることを願う。