ヒトの消化管をひっくり返すと植物の根と同じ働き
ヒトの大腸と植物の根は一見すると別々に見えますが、その関係性や仕組みはとても似ています。多くの微生物のいる土で育てた栄養価の高い健康な作物を食べることで、ヒトの健康が高まることがわかってきました。
今回は大腸と根についてデイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー著『土と内臓―微生物がつくる世界』からお伝えしていきたいと思います。
根と大腸は同じはたらき
ヒトマイクロバイオーム(宿主に定住する微生物の遺伝子の総体)が私たちの免疫機構に欠かせないように、植物の根の内部やまわりに棲む微生物は、植物の防御機構に欠かせないもので、人間は植物と同じ生物学的防衛戦略に組み込まれています。植物なら根圏、人間なら大腸に微生物を呼び寄せる栄養を用意します。私は根が浸出液を出していることは知っていましたが、大腸も浸出液を出して微生物の餌にしていることを初めて知りました。まさに根は腸であり腸は根であると言えます。
私たちの歯は土壌中のデトリタス(生物由来の破片や死骸)食動物と同じようにはたらき、有機物をかみ砕き小さくして、ほかの生物が分解過程を続けられるようにします。胃酸は土壌に棲む菌類の酸のように機能し、食物を吸収できる分子にまで分解します。小腸は、植物の根が水に溶けた養分を吸収するようにして、栄養を吸収します。小腸の内側はじゅう毛と呼ばれる繊維のような小さな突起で覆われている。これが、ちょうど土壌中の根毛のように表面積を何倍にも増やし、栄養吸収を大幅に向上させる。大腸の大釜の中では、根圏のように、微生物が宿主にとって欠かすことのできない代謝産物と物質を作っています。
小腸と大腸の壁にある杯細胞は、厚い粘液層を作ってほかの細胞を保護し、内くうの内容物を動きやすくするだけだと思われていました。その後の研究で、細菌が粘液で生息し、粘液を食べていることが発見されました。それは、植物が根圏に棲む微生物の餌として根細胞の表面から放出する糖質が豊富な浸出液に似ています。人間の内なる土壌に棲む細菌の大群は、消化されなかった植物質や死んだ大腸細胞だけでなく、粘液も食べます。引き換えに、その代謝産物は大腸の栄養となり、その存在は病原体を抑制します。私たちの微生物のパートナーが、私たちが食べたものを材料にして有益な化合物や防御物質を作る様子は、根圏微生物相と根の相互作用とそっくりです。
いずれの場合も、植物性有機物に富む食事が、健康と繁栄に欠かせない重要な栄養をもたらす一方、単純糖質と単一の無機質肥料は生長を早めるが、植物の、あるいはそれを食べる人間の、健康の土台となる栄養をすべて供給するわけではないのです。
いずれの場所でも、微生物の集団が宿主の生存に欠かせない二つの要素は、食物を手に入れることと、敵から身を守ることを助けています。見返りに微生物は、望みうる最高の生息地である、常に食物が豊富で安全な空間。微生物が繁殖し、快適に暮らす上で理想的な場所を手に入れることです。
植物の中であれ人体の中であれ、宿主と小さな借家人の双方に有益な協力関係を築く微生物に対して、進化は有利にはたらいてきました。この世に登場して以来、人間は共生生物を身体に住まわせてきました。私たちの内なる土壌に棲むのと同じ種類の微生物は、土壌にもいて植物の病気を抑えるのに役立っているものがいます。この単純だがこれまで注目されなかった事実が、農業と医療をどのように再構築するかの根本になります。
つまり、太古からの友の協力を仰ぐということです。
おわりに
現代の私たちはどうして化学肥料や農薬、除草剤を使うようになってしまったのでしょうか。1つは戦争で余った弾薬が肥料になり、毒ガスから殺虫剤や除草剤へ、戦車からトラクターへと形が変わったこと。手ごろな値段でこれらが普及すると、土壌の健康が土壌肥沃度に果たす役割への関心は薄れていきました。軍需産業の一部が農化学産業となって急成長する一方、工業的農法によって栽培される食物の栄養価が低下していることに科学者は懸念する声を上げていました。
このままでは終末に向かっていくばかりです。気づいた人から、できることからよき行いをしていきましょう。